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「こころの絆 ー 樋口 愛」個展DM2012年

テキスト:加藤義夫(キュレーター / 美術評論)

 

 

 世界と自らの距離をはかりながら生み出される独自の物語。その世界観から紡ぎ出される、不思議な絵画の数々。最近の樋口愛の絵画は、自己をみつめ直すことにより、自身をより深く知ることで自己解放につながり、より自由でリアリティのある表現を獲得してきた感がある。

 5〜6年前に彼女の作品に出会った時の作風とはかなり変化し、飛躍的に絵画としての説得力を増してきたようだ。それは彼女の自己分析能力が高まったことで、潜在的な力を導き出し、本人が感じるリアリティのある表現へと移行したともいえる。

 樋口愛の世界観は独特。例えば、地下茎にある球根から地上に芽吹く人間らしき人たちの「絆」というネットワークが、重要な意味を持つ。子どもの空間と大人の空間をつなぐ「こころの絆」による理想郷願望。

 それは、東日本大震災をきっかけに始まった福島県と東大阪市との児童絵画交流展や和久洋三氏の創造教育、画家でグリコのおもちゃデザイナーの宮本順三氏の活動に触発され、ここから多くのことを学び感じとったようだ。

 このユートピア願望は、5年前に樋口愛の個展の案内状に筆者が書いた、画家ポール・ゴーギャンの楽園願望との共通項をみいだせる。という意味では、現在も基本的なテーマに変化はなく描き続けている。画風は変われども根底に流れている基本的な作家の思いは不変である。

 「こころの絆」を基本とした世界は、不穏な状況下が続く現在の日本では、最も重要な課題といっても過言ではない。視覚言語としての絵画を媒体とした樋口愛の「こころの絆」というメッセージは、人々のこころにどこまで深く届き響くかが楽しみである。

 

 

 

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