樋口愛の絵画には、突然仕事をやめてタヒチに旅立った、19世紀の画家ポール・ゴーギャンを彷彿させるところがある。彼女の作品「つちたま
さらばこれにて」は、そのオレンジ色の色彩にゴーギャン的な光が感じられる。その光は、ゴーギャンが抱いた南の自然への憧れと同様のものであろうか。今彼女は、自然や大地に大きなエネルギーを感じ、息づく生命の絵画を表現しようと模索しているところだ。
ゴーギャンが経験した18世紀から19世紀に起こった産業革命と、今日彼女が体感している、20世紀後半から21世紀に現れた情報革命(IT革命)は、これまで人類の生命と生活に多大な影響を与えてきた。後年、前者は地球環境破壊を招き、後者は工業社会から、情報社会へ移行することでおこる、大きな社会変化を予兆するものだった。
未だ人類が経験してことのない、この大きなうねりと流れを、彼女は日頃からヒリヒリと肌で感じているようだ。その本能的な潜在意識下に、この変化を吸収し受け止めてくれるものこそが「かぐわしき大地」という名の自然であると感じているのであろう。